東大物理学科教授 山本智先生の寄稿 第七章
7.ぜひ女性にもたくさん来てほしい
理学部に進学する女性の割合はとても少ない。学部の場合、僅か10%程度、大学院の場合でも20%程度である。もちろん学科によって大きく異なり、学部の場合、物理学科の5%程度から、生物学科の40%まで大きな開きがある。これらの数値は欧米に比べて明らかに少ない。それだけに、女性研究者の割合も少ない。残念ながらこれが現状である。しかし、理学部が主催する講演会やオープンキャンパス、そしてサイエンスカフェなどの高校生が参加できる企画には、大勢の女子高校生が来て、目を輝かせて講演を聴いたり、実験を見たりしている。「なのにどうして少ないのだろう?」といつも思う。
理学の研究には本質的に男女の差はない。素晴らしい成果を挙げて活躍している女性研究者は少なくない。しかし、理系は男性のものというイメージが社会的にあることも事実で、それが女性の理系進路選択を阻害している一因ともなっていることは否めない。もしそうだとすれば、たいへん残念なことだと思う。私は、理学系研究科がこれからもよい研究成果を出して世界をリードしていくためには、この壁を絶対に乗り越えなければならないと思っている。理学部、理学系研究科に来てくれる女性の割合がたとえば30%-40%になれば、理学部、理学系研究科はものすごく変わるだろう。自然に興味を持ちながら、さまざまな要因で他の進路を選んでいる人が来てくれれば、それだけで実現できる。男性も女性も優秀な人の割合は同じだと思う。優秀な女性で、他の分野に流れていた人が来てくれれば、レベルはぐっと上がる。どこの分野でも優れた人材の確保は非常に重要である。女性の進学者を増やすことは、理学部、理学系研究科にとって大きなプラスになる。そしてそれは、男女問わず、自分のやりたいことができる社会の実現に直接つながるのだ。
女性の場合、出産という大事な役割がある。研究者は研究のペースを自分できめることができ、また、比較的時間をフレキシブルに使えるので、出産や育児に対応しやすい面がある。また、育児休暇から再スタートする研究者のための支援制度もできつつある。理学系研究科の男女共同参画の基本方針では、様々な評価において、出産、育児、介護などに係る負担を配慮することを宣言している。まだまだ不完全とはいえ、この方面の対応は急速に進みつつあることを付け加えたい。