東大物理学科教授 山本智先生の寄稿 第二章その1

2.研究は自然から学ぶこと


社会一般の多くの人たちは、私たち人類は自然の仕組みをすでによく理解していると思っているかもしれない。理科の教科書には覚えなければならないことがたくさん書かれている。それらをもとに自由自在に自然をあやつり、豊かな生活を享受しているかのようである。しかし、それは間違っている。

私たちは自然の仕組みのほんの一部を理解しているにすぎないのだ。僅かな理解をもとに、様々な工夫をかろうじて現在の社会が成り立っている。よく突き詰めれば実はわかっていないことだらけなのである。たとえば、脳の仕組みはどうなっているか?生命はどうして誕生したのか?エルニーニョ現象はなぜおこるか?宇宙を満たす暗黒物質、暗黒エネルギーって何?重力の起源は?これらの基本的な問いに対して、自然科学者はだれも答えを持っていないのである。

一方、一部の都合のよい知識を利用する結果、様々な問題が発生することも多い。薬の副作用、フロンによるオゾン層破壊、アスベストによる健康被害など枚挙に暇がない。そんなときによく聞く言い訳は、「当時の知見では予想できなかった。」である。私たちは自然に対する無知を認識し、謙虚にならなければならない。その上で、自然のことを深く理解する努力を続けなければならない。自然科学の研究は人類社会の永続的発展を支える重要な活動である。

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